ドバイ最大級ブローカー・fäm Propertiesの日本人エージェントに聞く|市場はピークアウトしたのか、1〜2億円で何を買うべきか
約950人のエージェントを擁し、ドバイ市内に25前後の拠点を展開するfäm Properties(ファム・プロパティーズ)。2009年創業、DLD(ドバイ土地局)の取引データを活用したデータドリブンな営業で知られる、名実ともにドバイ最大級のブローカー。その巨大組織の最前線に立つ日本人ブローカーが松本拓生氏。英国での会社員生活を経てドバイへ渡り、現地大手を経験したのち、2024年1月にfämへ合流した。今回のインタビューでは、キャリアの歩みから大手ブローカーの内側、市場の現在地、そして日本人投資家への具体的なアドバイスまで、率直に語ってもらった。

「自由を楽しみたい」。英国からドバイへ

松本氏のキャリアは英国から始まる。ストーク・オン・トレントに本社を置く大手オンラインゲーミング企業で、日本人カスタマーサービスに従事。10人超の日本人チームの中で英語が堪能だったことから、他部署との調整役を一手に担い、実質的なチームリーダーとして働いていたという。
転機は、コミッションのみの契約でドバイの不動産を売りに行くという親友の言葉だった。組織の中で評価と貢献のギャップに悩んでいた松本氏にとって、実力がそのまま報酬になる世界は魅力的に映った。「最初はお金が理由だと思っていたんですけど、よくよく考えたら、自由を楽しみたいという思いのほうが強かったのかもしれないですね」。一度も訪れたことのないドバイへ、迷いなく飛んだ。
渡航後はホテル暮らしをしながら人脈を広げ、現地の大手ブローカー数社での経験を積む。そして、知人の紹介を機に、かねて「相当大きな企業」と聞いていたfämの門を叩いた。応募が殺到するため、入社手続きだけで4週間前後を要したというエピソードが、同社の人気を物語っている。
fämの武器。ブランド、広告予算、そしてDLDデータと融合したCRM

fämの強みを尋ねると、松本氏はまず「ブランド」を挙げた。2009年から17年間続く実績は、売り手・買い手双方に「fämなら信頼できる」という安心感を与える。ブローカーへの不信感が根強いドバイ市場において、この信用力は決定的に効く。
そして、注目すべきが、社内CRM(顧客管理システム)。「CRMがDLDの取引データと融合しているんですよね。市場価格より下なら緑、上なら赤と表示されて、実際のデータとすぐに比べられる」。松本氏は複数の大手を経験しているが、「やっぱりfämのCRMが優れています」と断言する。社名の由来でもある創業者兼CEO、フィラス・アル・ムサディ氏がDLDと築いてきた関係性が、このデータ基盤を支えているという。
もっとも、データは持っているだけでは意味がない。松本氏はクライアントをオフィスに招き、なぜこの物件が市場価格を上回って成約したのか、なぜ相場より安く売られているのかを、データを示しながら一つずつ説明するスタイルを貫いている。「情報を正確に提供すれば、『この人はこのエリアのことをわかっているな』と信頼される。最終的には、どれだけクライアントの信頼をもらえるかの勝負なんです」。下調べをしないブローカーも珍しくないドバイで、この丁寧さ自体が差別化になっている。
国籍で変わる意思決定。「日本人」というブランドが効いた瞬間

世界中の投資家が集まるドバイでは、クライアントの国籍によって意思決定の質もスピードも変わる。松本氏の観察では、最も早いのは中国人投資家。「ビジネスに感情をまったく入れないんですよね。そのため意思決定が鋭い」。一方、富裕層に共通するのは判断の早さだという。「感情で動かされたらお金も時間も無駄になると、よくわかっている人たちなんです」。実際、売り手の自宅での内見中に買い手の指摘が売り手の感情を逆撫でし、好条件の契約が白紙になった事例も見てきた。感情とエゴが取引を壊す——それを熟知しているからこそ、松本氏は交渉の場の設計にまで気を配る。
「日本人」という看板が効いた象徴的な取引もある。今年6月、日系企業に勤めるインド人クライアントが3ベッドルームの中古物件を探していた。市場価格280万〜290万AEDのところ、テナントが海外滞在中で内見不可という事情から、相場を大きく下回る価格で売りに出た物件が浮上。「内見なしで決めないといけないかもしれない、と正直に伝えました。初対面のクライアントなら絶対に無理な提案です」。
だが、松本氏が日本人だと知った瞬間から信頼が一気に深まり、対話を重ねた末、庭からの外観確認のみで購入を即断、無事に成約へ至った。「日本人というブランドは世界で通用します。ただ、最終的に大事なのは、どれだけいいサービスをするか。適当な物件を売りつけてクライアントが将来困るなら、いいセールスとは言えませんから」。

大手の内側——「オフプラン7割」の実感値と、デベロッパーとの距離感

2026年前半はオフプランが取引の7割を占めたとされる。だが、現場の実感は少し違う印象の模様。「fämのオフプランチームにいる何人かは結構苦戦していて、今は賃貸とセカンダリーのセールスに力を入れ始めているんです」。7割という数字も、取引件数ではなく取引額ベースではないかと松本氏は見る。オフプラン偏重の報道と、大手の営業リソースの実際の配分——このギャップは、投資判断の上で覚えておきたい視点といえる。
fämではエリアも商品も自由に選べる体制で、実際にはエージェントの8〜9割がセカンダリー(中古)を手がけているという。内見なしで売れるオフプランに比べ、売り手との交渉やテナント対応が絡むセカンダリーは格段に手間がかかる。その分、仲介者の力量が問われる領域でもある。
EMAARやDAMACといった大手デベロッパーとの関係については、意外なほど率直な答えが返ってきた。「fämという名前を出せば、ちゃんと対応しようという流れにはなります。ただ、優遇や限定的なアクセスを得られるかどうかは、最終的には個人。デベロッパーの在庫を積極的に売っているエージェントだけが、特別なアドバンテージを得られるんです」。会社の看板と個人の実力、その両輪で動くのが大手ブローカーのリアルである。
オフプランと完成物件(セカンダリー)の違いや選び方は下記記事から
「ドバイの不動産投資は怪しい?基礎知識・制度・データで読み解く【最新版】」
市場はピークアウトしたのか?

2025年後半から囁かれる「ピークアウト論」。松本氏の見立ては明快である。「伸びていくと思います。ポジショントークに聞こえるかもしれませんが、データを見ると普通に上がっているんですよね」。実際、同氏が主戦場とするDAMAC Hillsでは、市場価格450万AED相当の物件が670万AEDで成約する事例が今年6月に発生。DLDデータを公開するDXB interactを見ても、記録更新が続いているという。
注目エリアとして名前が挙がったのが、EMAAR Oasis(エマール・オアシス)。総面積約1億sqftという広大な敷地に、ヴィラは約3,000戸のみという低密度開発。「隣のDAMAC Hillsは築9年で、5ベッドルーム(建物約5,200sqft・敷地約7,000sqft)が14〜17ミリオンAEDで取引されています。一方、私が扱っているOasisの物件は建物6,200sqft・敷地平均8,200sqftと明らかに上回るのに、今10ミリオンで売られている。めちゃくちゃお得だと思います」。周辺コミュニティの成熟価格から逆算する——大手のデータ環境に身を置くブローカーらしい、根拠の明確な推奨である。新空港となるアル・マクトゥーム国際空港へのアクセス、ゴルフ場の近さ、緑の多さも評価材料に挙げた。
予算1〜2億円の日本人投資家へ。やるべきこと、やってはいけないこと

予算1〜2億円(約300万〜500万AED)の個人投資家に対する松本氏の提案は具体的である。賃貸収入を狙うなら、供給が少なく需要の厚いヴィラやタウンハウス。さらに一歩踏み込んだ戦略として、DAMAC Hills 1やMudonといった成熟コミュニティで割安な中古を仕込み、1〜2年賃貸に出して資金を貯め、リノベーション後にプレミアム価格で売却する手法を挙げた。「プール付きのタウンハウスは、その時点で価格が上がる。買い手はある意味、時間を買っているんです」。庭が広い物件、裏手にコミュニティパークが広がる物件、水辺の物件は価値を保ちやすいとも付け加えた。
逆に、絶対にやってはいけないことは何か。「周りのエリアと比較しないこと。買おうとしている物件とまったく同じ物件が同じエリアにたくさんあるなら、希少性は出ません」。供給過多の均質な物件を、比較検討なしに掴むこと——これが最大の禁忌である。
そして、松本氏が最も力を込めたのが、購入後の伴走だった。「大きな買い物をした後に『はい、終わりました』ではない。賃貸収入のサポートから、今はホールドすべきか売り時かの判断まで、最後まで伴走することが大事なんです」。日本人であることは世界で通用するブランドだと語りつつ、「最終的に日本人かどうかは関係ない。どれだけいいサービスをするかがすべて」と言い切る姿勢に、信頼される理由が凝縮されていた。
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