ドバイの“次”を、誰よりも早く——DDクレスト・出倉氏が読むラス・アル・ハイマ不動産の可能性

「ドバイ、ドバイ」と誰もが口をそろえていた数年前、その喧騒から半歩外れた土地に、いち早く狙いを定めた日本人がいた。D.D CREST(ディー・ディー・クレスト)代表の出倉氏大輔氏。YouTuberのヒカル氏や堀江貴文氏(ホリエモン)とのコラボレーションで知られ、世界的オークションハウス・クリスティーズの不動産部門「クリスティーズ・インターナショナル・リアルエステート」のドバイ支社と業務提携を結ぶ、ドバイ不動産の最前線を走るブローカーカンパニーである。
※本記事は、Gates Dubai 8月号「UAE不動産の現在地」に掲載したインタビューのロングバージョンです。

MASAレジデンスという最初の一手——400戸完売の内実

出倉氏が、最初の一手を打った土地こそ、ドバイから車でおよそ1時間、北に位置する首長国——ラス・アル・ハイマ(Ras Al Khaimah、通称ラック)だった。ウィンのカジノリゾート、アル・マルジャン・アイランドの人工島群、今なお多くの日本人にとって耳慣れないこの首長国を、出倉氏は早い段階から掘り当てていた。ラス・アル・ハイマ不動産の可能性はどこにあるのか。開発の当事者として現場を歩いてきた出倉氏に、その来歴と読み筋を聞いた。
視察を経て出倉氏たちが選んだのは、アル・マルジャンで、まだデベロッパーの参入がほとんどない一等地に、自分たちで一棟を立ち上げる道だった。D.D CRESTとクリスティーズが顧客を束ね、ファンドを付けてレジデンスを組成する。それが「MASAレジデンス」である。
「MASAレジデンスに関しては、僕たちとクリスティーズのチームで、ようやく完売させました。全部で400戸です。平均価格は8,000万円くらいなので、ざっくり320億円くらいの規模になります。僕たちは開発から携わっているので、誰が売っても仕入れ価格と販売価格の差が自分たちの利益になる。パーセンテージのブローカー報酬ではなく、デベロッパーとしての利益なんです」
ここに、出倉氏がラス・アル・ハイマを選んだ本質的な理由がある。仲介手数料を積み上げるビジネスと、開発者として原価と販売価格の差を取るビジネスは、収益の構造がまるで違う。そして後者は、ドバイでは事実上、手が届きにくい。
「ドバイではやりたくてもできなかったことなんです。ドバイでは実績がない限り、なかなか参入できない。競争のなかで差別化するなら、ラス・アル・ハイマが一番いいんじゃないか、というのが一つの答えでした」
MASAレジデンスはアル・マルジャンでも最初期のプロジェクトであるがゆえに、後続の価格の物差しになったという。
「僕たちのMASAレジデンスは、かなり初期のプロジェクトなので、料金体系がベンチマークになったんです。スタジオは3,500万円くらいから、1ベッドルームは6,000万円から6,500万円くらい、2ベッドルームで8,000万円くらい。均して平均すると8,000万円ほど。ヴィラだと3億円から4億円くらいですね」
ウィン・アル・マルジャンが変える島の“重力”

ラス・アル・ハイマの物語の中心には、常にウィンのカジノリゾートがある。中東初とされるこの巨大複合施設は、アル・マルジャンの最も先端、いわゆる第4の島に据えられる。
「ウィンのホテルは1,500室くらいで、そのなかにカジノができます。周りにはコンベンションセンターやモール、エンターテインメント施設が集まる。アル・マルジャンの一番先端、第4の島と呼ばれるセンターですね。総事業費は8,000億円規模で、ウィングループとラス・アル・ハイマ政府のジョイントベンチャーです」
MASAレジデンスが持つ最大の強みは、この巨大な引力が完成するより「前」に立ち上がる点。カジノの開業は2027年の見込みで、MASAレジデンスは、その手前で引き渡すスケジュールで動いている。
「ウィンのカジノができる前に完成するという契約になっています。他のホテルは2028年、2029年、2030年が多いので、うちはウィンが開業する前に完成するパイオニアとして、集客の面でも先行できるんです」。立地の近さも、その優位を後押しする。カジノまでの距離は、日常の生活圏に収まる範囲にある。「MASAからウィンまでは車で5分くらい、歩いても15分から20分です。涼しい時期なら散歩がてら行ける。自転車の貸し出しもあるので、アクセスは非常にいいですね」
ドバイの名だたる面々が、すでに集まっている
ウィンが呼び水となり、ドバイで名を馳せたデベロッパーとホテルブランドが、雪崩を打つようにアル・マルジャンへ入ってきている。出倉氏が挙げる顔ぶれは、そのまま現在のUAE高級不動産の勢力図でもある。
「すでに有名どころは来ています。エリントンもありますし、ダマック、エマールはオリジナルブランドのアドレスを作っている。Wレジデンス、JWマリオット、アストンマーティン、ノブ、ニッキ・ビーチ、シェラトン——そして、アマングループのブランドまで決まっています。今ドバイで流行っているホテルは、ほぼ全部入っていると考えていいと思います」
大手が出揃うということは、価格の底が固く、出口の買い手にも困りにくいという意味を持つ。まだ砂漠に近かった数年前にこの土地を押さえたことの含み益は、こうした後発の集積によって、いよいよ現実のものになりつつある。
三つのエリアをどう読むか——アル・マルジャン/ミナ・アル・アラブ/アル・ハムラ

ラス・アル・ハイマといっても、その表情は一様ではない。出倉氏は、投資対象として押さえるべきエリアを3つに整理する。起点となるアル・マルジャンは、アラビア語で「サンゴ」を意味する人工島群。
「アル・マルジャンというのは、アラビア語でサンゴという意味なんです。パーム・ジュメイラの小さい版というイメージですね。このエリアの土地自体はほぼ完売していて、プロジェクトは2/3くらいがすでに発表済み、残りの1/3がこれから発表されるという段階です」
その上で、性格の異なる3つのエリアを、それぞれの温度感とともに描き分ける。
「僕のイメージでは、キーになるエリアが3つあります。まずアル・マルジャン。ここはウィンのカジノもほぼ完成していて、料金体系はすでに上がってきています。次にミナ・アル・アラブ。車で15分ほどの、もう少しゆっくりした自然の多いリゾートで、家族向けですね。ここはアル・マルジャンよりまだ料金が安い。もう一つがアル・ハムラで、ドバイでいうマリーナのような立ち位置です。リッツ・カールトンなどがあって、開発も進んでいます」
カジノに近いアル・マルジャン、家族連れや富裕層がゆったり過ごすミナ・アル・アラブ、既存リゾートの開発が進むアル・ハムラ。ギラギラした賑わいを求める層と、落ち着きと緑を求める層とを、地理が自然に振り分ける構図になっている。
制度・税・建設——ドバイとの違いはどこにあるか
投資家がまず気にするのは、ドバイで慣れ親しんだ仕組みがどこまで通用するか、という点だろう。結論から言えば、根幹は変わらない。エスクロー口座も、無税である点も、ドバイと同じ設計になっている。
「エスクロー口座も無税なのも、基本はドバイと全部一緒です。違うのは、ドバイだと購入時に最初に4%のDLD(登録手数料)を払わなければいけないところ、ラス・アル・ハイマは2%から4%で、しかも完成時に払う。だから完成前にキャピタルゲインが出たら、転売もしやすいんです。ドバイだと4%を払って、次に買った人もまた4%……となりますが、そこが軽い。転売しやすさという意味では、むしろメリットだと思います」
一方で、市場としての成熟度には差がある。取引や手続きのスピードは、レジデンスの数で圧倒するドバイに一日の長がある、と出倉氏は率直に認める。
「システムのスピード感でいうと、ドバイのほうが若干早いですね。レジデンスの数が圧倒的に多くて仕組みが整っているので。各種手続きは、ラス・アル・ハイマだとワンテンポ遅れる印象は少しあります。ただ、透明性はきちんとあるので、安心していただいて大丈夫です」
ところが、こと「建てる早さ」に限れば、評価は逆転する。ラス・アル・ハイマは、建設を支える資源そのものを地元に抱えているため。
「逆に、竣工のスピードはラス・アル・ハイマのほうが早いんじゃないかと思っています。世界一の生産量を誇るセラミック工場を持っていて、木材のような資材も現地にある。山を削って人工島を作るような資源も揃っている。ドバイはそういう資材をラス・アル・ハイマから運んでいるくらいなので、内装や建設のスピード、そして運搬費が下がる分のコスト面でも、意外と有利なんです」
ブームの陰で——「デベロッパー選び」という自衛
注目が集まれば、玉石が混じる。カジノとUAE不動産という組み合わせには、いくらかの怪しさがつきまとうのも事実だろう。だからこそ、と出倉氏は言葉を選びながら、自らの守りの流儀を明かした。
「気をつけるべきは、やはりデベロッパー選びです。新しいデベロッパーがどんどん出てきていて、名前も聞いたことのないところが入ってきている。なかには怪しいところもあるんです。だから僕たちはクリスティーズと一緒にきちんとリサーチをかけて、このデベロッパーの物件を扱っていいのかどうかを判断しています。しっかりしたパートナーシップを組めるところと協業する。そこは一番気にしていますね」
売り手が誰と組むかは、そのまま買い手のリスクに直結する。急成長する市場において、扱う物件を絞り込むこと自体が、顧客に対する最大の防御になる——その姿勢は、開発から出口までを一貫して背負う立場ならではの重みを持っている。
利回りは二桁も——観光需要と“足りない部屋”の算術

では、投資対象としての実力はどうか。数字の話になると、出倉氏の口調はにわかに熱を帯びる。あくまで肌感覚と前置きしつつ、その水準はドバイを上回るという。
「利回りは、肌感覚で言うとドバイより高いと思っています。今の平均で7%から8%。これはまだウィンのカジノができる前の数字です」
カジノ開業後の跳ね上がりを、出倉氏は観光客数と客室供給の“算術”で説明する。狭い島に人が押し寄せ、部屋が足りなくなる——そのギャップが、利回りを押し上げるという読みである。
「観光客が今、ラス・アル・ハイマ全体で年間120万人くらいなんですが、ウィンができた初年度で350万人まで上がると言われている。そこから2030年までに500万人、600万人まで行くはず。アル・マルジャンは狭い島なので、年間で7万5,000室くらいホテルが足りないという計算も出ているんです。サービスフィーや民泊の手数料を差し引いても、10倍以上は固いんじゃないかな。戦争の影響を織り込んでも、実際には12%、13%は出るんじゃないかと見ています」
高い利回りは、そのまま出口の価格上昇——キャピタルゲインの期待にもつながる。もっとも、出倉氏がすすめるのは短絡的な転売ではない。まずは回して実利を得てから、頃合いを見て出る、という順序。
「僕たちが思うのは、価値ができてから何年かは利回りで回したほうが、利益は最大化できるということです。2、3年回して、いいタイミングで売りたいなら出口を取る。そういう出口の描き方をおすすめしています」
インフラと空港、そして人口——「カジノだけ」ではない都市設計

利回りの前提となるのは、島の外とをつなぐインフラ。渋滞というドバイの弱点を、ラス・アル・ハイマは最初から織り込んで設計している。
「インフラも発表されています。アル・マルジャンとアル・ハムラを直接つなぐ大きなブリッジの建設が決まっていますし、高速を降りてからの道路もどんどん拡張している。将来的にはドローンタクシーやフェリーでの移動も考えているようです。人工島なので、島から島へ、ホテルからホテルへ移動できるようにするというイメージですね」
そして何より、出倉氏が強調するのは、この開発が「観光」だけを目的にしていない点。人が住むための都市機能が、着実に敷かれつつある。
「学校の建設ももう決まっていますし、病院もどんどん建てられている。ドバイのDIFCのような金融エリアも作っていく。ウォーターフロントの奥はヴィラや学校で、街づくり自体が決まっているんです。観光客を増やすのと同時に、人口も増やしていく。GDPの成長率も高いので、そこを明確に意識しているのがわかります」
東京・京都・大阪——UAEの「ゴールデンルート」論
ドバイ、アブダビ、そしてラス・アル・ハイマ。三者の関係を、出倉氏は日本の都市になぞらえて描く。競合ではなく、役割の分担。そこにUAE政府の狙いを読む。
「アブダビもすごくいいマーケットだと思っています。ヤス島にはディズニーも来るし、美術館もある。文化的な要素が強いですよね。日本に例えるとわかりやすくて、ドバイが東京、アブダビが京都、そしてラス・アル・ハイマは大阪、というイメージ。色がしっかり分かれている。UAEの政府も、その3つをぐるっと回らせる『ゴールデンルート』を作りたいんだろうなと思っています」
大阪のIRが日本でこれから動き出すことを思えば、カジノを軸に据えたラス・アル・ハイマの立ち位置は、日本の読者にとっても想像しやすい。
「大阪のIRがこれから始まるように、IR・カジノという観点ではラス・アル・ハイマとよく似ている。将来的に新幹線のような鉄道や駅もできてくれば、観光でも効率的に回れるようになる。そうなると、この3つがもっと動いてくると思います」
「ドバイの15年前」に立つ——出倉氏が描く先の風景

ここまでの話を貫くのは、たった一つの見立てである。今のラス・アル・ハイマは、かつてのドバイの原点にいる——出倉氏は繰り返しそう語る。
「僕のイメージは、ラス・アル・ハイマは今のドバイの15年前、20年前なんです。パーム・ジュメイラもブルーウォーターズもなかった頃のドバイが、あそこまで急成長して価格が5倍、6倍になった。ラス・アル・ハイマは、まさにそのスタート地点にいると見ています。カジノはあくまで起爆剤で、その裏でドバイと同じような街づくりを全部やっていく。だからカジノだけに頼っているわけではなくて、それを踏まえた都市開発をしているんです」
カジノという単一の題材にリスクを感じる向きもあろう。だが、出倉氏の見立てでは、政府の設計思想はカジノを「前提」に置いた総合的な街づくりにある。ゆえに、仮にカジノ単体の風向きが変わっても、都市そのものが残る、という。
ブローカーから仕入れへ、仕入れから開発へ、そして今は不動産のトークン化・小口化という次のフェーズも視野に入れる。事業の階段を一段ずつ上ってきたD.D CRESTにとって、ラス・アル・ハイマは単なる商材ではなく、自らの成長曲線と重なる舞台でもある。
「今は不動産のトークン化・小口化の話が動いているので、ファンドの組み方も変えようとしています。1口100万円でホテルのオーナーになりましょう、といったことができる。将来的にはホテルそのものも作りたいですね」
誰もがドバイに殺到した数年前、砂漠に近い島の空気に「違い」を嗅ぎ取った一人の日本人が出倉氏だった。ウィンのカジノはまもなく開業し、名だたるブランドが出揃い、価格はすでに動き始めている。ラス・アル・ハイマ不動産の可能性は、突き詰めれば「ドバイのスタート地点をもう一度買えるかもしれない」という、時間差の妙にほかならない。その差に賭けた出倉氏の読みが正しかったかどうかは、これから数年の街の成長が答えを出していくだろう。
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