なぜいま、アブダビの不動産なのか?「世界のアブダビ」を見据えるバイテックス・上野代表に聞く

2026年第1四半期、アブダビの不動産取引総額は660億AED、前年同期比160.7%増と四半期ベースで過去最高を記録。個人投資家による対内直接投資は前年比4倍超、参入する投資家の国籍は99ヵ国に及ぶ。ドバイの陰に隠れがちだった首都の市場が、いま世界の資本を引き寄せている。その流れが表面化するはるか前からアブダビに拠点を構え、日本人投資家向けに現地不動産を扱ってきたのがバイテックス(BITEX)である。代表の上野氏に、アブダビ市場の構造と可能性、そして日本人投資家が知っておくべき実務を聞いた。
※本記事は、Gates Dubai 8月号「UAE不動産の現在地」に掲載したインタビューのロングバージョンです。

日本で開催されたバイテックスのセミナー。サディヤット島の文化施設に関心が集まる

<プロフィール>
上野真司(うえの・しんじ) バイテックス(BITEX)代表
日本で上場企業の経営と20年以上の不動産事業経験を経て、UAEへ。ドバイ不動産市場の視察を機にアブダビの市場構造に着目し、同地で創業。政府系デベロッパー・アルダーをはじめ主要デベロッパーの代理店として、日本人投資家向けにアブダビ・ドバイ不動産の購入から管理・売却までを一貫サポートする。

「首都はどこ?」——成熟したドバイの先に見えたもの

サディヤット島の海辺に延びる遊歩道「マムシャ」。落ち着いたラグジュアリー感が漂う

上野氏は、日本で上場企業を経営し、20年以上にわたり不動産業に携わってきた。事業のバイアウトを機に一区切りをつけ、当時盛り上がりを見せていたドバイへ、まずは一人の客として降り立った。エマールやダマックといった大手デベロッパーの物件を、日本人ブローカーの案内で見て回ったのが出発点。

そこで感じたのは、市場の熱気と、それを扱う側への違和感だった。SNSで集客し、ドバイのきらびやかな世界に顧客を招き、セールスセンターを案内すれば勢いで買ってもらえる——そんな営業スタイルが主流に見えたという。相場全体が右肩上がりだった数年前までなら、それでも買い手は損をしなかったのかもしれない。だが、状況は変わった。

「今のドバイは、東京と同じように成熟しています。成熟した市場では、相場観と場所選びがものすごく重要になる。そこにまだ気づいていないクライアントが多いと感じました」

20年不動産業を営んできた目には、市場の成熟度と売り方のギャップがはっきり映った。では、どこに勝機があるのか。視線は自然と首都に向かった。調べてみると、アブダビの市場構造は、ドバイとまるで違った。

開発の主体はほぼアブダビ政府であり、そもそもドバイが資金難に陥った際に融資してきたのはアブダビ政府。豊富な政府資金が需給バランスをコントロールする市場——しかも2019年の法改正により、外国人が不動産を所有できる道が開かれたばかりだった。安定した構造と、開いたばかりの門戸。投資家が目をつけない理由がない、というのが上野氏の読みだった。

「世界中の不動産を調べてきましたし、実際に取引もしてきました。それでも、このような構造になっている国、都市はアブダビしかなかったんです」

建物を作りすぎず、需給を常にコントロールするという政府の姿勢は、経営者としての上野氏の考え方とも合致した。それでも周囲からは「だいぶ反対された」と笑う。無理もない。上野氏が法人を設立した時点で、ヤス島のディズニー・テーマパーク構想はまだ発表すらされていなかった。観光誘致という政府方針、フェラーリ・ワールド(F1最終戦)、チームラボなど点在する材料から「ディズニーが来る可能性」を読んではいたというが、確証があったわけではない。

「投資の世界でも同じだと思うのですが、みんなが騒ぎ始めたら、もう遅いんです。これから始まっていく市場こそ、一番ポテンシャルがある」

160%増は一過性か、構造か

アブダビ中心部にそびえる超高層ビル群。首都の資本力を物語る

冒頭の数字に戻りたい。取引額が前年比2.6倍という急伸を、現場はどう見ているのか。上野氏の答えは「明らかに構造」と言い切る。

根拠として挙げるのが、成長の質の違い。ドバイの成長は、ブルジュハリファのような象徴的プロジェクトが一気に人と資本を呼び込む、いわば瞬発型だった。対して、アブダビの現在の伸びは、政府主導の開発、文化施設の集積、金融特区の成長、法制度の整備といった要素が長年積み重なった帰結にあたる。

「波は荒くないほうがいいんです。株価が一気に上がれば一気に下がるのと同じ。それが構造の力かなと思います」。急騰は急落の裏返し、というのが相場の鉄則。アブダビの160%増を「過熱」ではなく、「蓄積の顕在化」と読むところに実務家としての視点がある。

では、ドバイとアブダビの市場性格の違いは、どう整理できるのか。「ドバイは民間主導の流動性、アブダビは政府系資本主導の計画性」という問いに、上野氏は「正しいですね」と即答したうえで、印象的な比喩を返した。「ドバイは、とりあえず木を植えるんです。木を植えて、伸びたところに森をつくっていく。アブダビは逆で、森の設計から始まる」

この計画性を財政面で裏づけるのが、政府系資本の厚み。政府系デベロッパー最大手・アルダーの筆頭株主は、政府系ファンドのムバダラ。そしてADIA(アブダビ投資庁)をはじめとする政府系ファンド群の運用資産を合算すれば、アブダビは都市単位で世界最大級の政府系資産を抱える。重要なのは、その資金が石油収入の単なる貯蓄ではなく、日本を含む世界中への再投資に回されている点にあること。

「オイルマネーとは言われたくない、というのが政府の考え。世界中を見ている金融のプロたちが動かしている市場ですから、まだまだ強いだろうと考えています」

文化が資産価値をつくる——サディヤットとディズニーの心理的効果

「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」。文化の時間軸で“未来”を担う没入型施設

アブダビの開発戦略で特徴的なのが、文化への投資。サディヤット島にはルーヴル・アブダビが立ち、2025年11月には鷹の羽根をかたどったザイード・ナショナル・ミュージアムが開館した。グッゲンハイム・アブダビの建設も進む。上野氏によれば、この文化集積は不動産価値に「かなり影響を与えている」という。「ルーヴルが過去、ザイードが現在、チームラボが未来。そういう時間軸で文化が配置されていて、エリア全体に高級感を与えています」

美術館が並ぶだけの島ではない。過去・現在・未来という時間軸を持たせた文化の配置は、都市のブランドを設計するという発想そのものであり、まさに「森の設計から始める」アブダビの手法がもっとも純粋に表れた場所といえる。今後は大規模モールの開業も控え、街としての厚みは増していく。実際に島を歩けば、落ち着いたラグジュアリー感は他エリアと一線を画す。

一方、ヤス島のディズニー・テーマパーク計画がもたらしたのは、経済効果の試算以上に「イメージの転換」だったと上野氏は指摘する。中東に対して世界が抱いてきた、宗教的に厳格で近寄りがたいという潜在的なイメージ。ファミリーエンターテインメントの世界的象徴であるディズニーの進出決定は、それを一撃で覆す記号として機能した。

「肌を見せて歩いてはいけないんじゃないか、ちょっと怖い、という潜在的なイメージが、ディズニーランドが来るというニュースで一気に払拭された気がします」

狙い目はリーム島——「ドバイのDIFC」がすでにある場所

高層階から望むアブダビ市街。開発はまだ沿岸主要部のみで、伸びしろを残す

では具体的に、どのエリアに注目すべきか。現在のアブダビで開発が進むのは、フダイリヤット、リーム、サディヤット、ヤスという主要4島。その中で上野氏が挙げたのはリーム島だった。サディヤットはすでに価格が上昇しており(それでもまだ上がるとの見立て)、値上がり余地との兼ね合いで狙い目はリームにあるという。

理由としては、リーム島には金融自由特区・ADGM(アブダビ・グローバル・マーケット)が置かれ、アブダビで唯一、高層ビル群が立ち並ぶ。ブラックロックをはじめ世界の名だたる投資ファンドが、すでにここにオフィスを構える。ドバイの不動産価格を押し上げてきた金融特区・DIFCに相当する機能が、リーム島には「すでにある」。それでいて、価格はまだ安い。

アクセスも申し分ない。空港からリーム島まで車で30分足らず、主要エリアはおおむね30分圏内に収まるコンパクトさがアブダビの特徴。さらにUAEでは高速鉄道の整備計画が進行中で、リーム島にも駅が設けられる見通しだという。金融ハブ、割安な価格、交通インフラの三拍子。同島の開発を主導するのは政府系デベロッパーのモドン(Modon)で、同社がフダイリヤット島で手がけたゴルフ場隣接プロジェクトは発売直後に驚異的な売れ行きを記録した。ちなみに、バイテックスもこの販売に関わっている。

投資するなら1〜2ベッドルーム

サディヤット島を巡る無料シャトルの案内。ルーヴルや文化施設を結び回遊性も高い

物件タイプについては、明確な推奨がある。投資目的なら1ベッドから2ベッドルーム。根拠は賃貸需要の構造。アブダビは、F1最終戦をはじめイベントが極めて多く、特に11月から12月にかけては連日何らかが開催される。ところがホテルの供給がまだ追いついておらず、短期賃貸(Airbnb)需要が非常に高い。3〜4人グループでの宿泊も多く、単価が伸びやすいという。

価格水準は、空港に最も近いヤス島で1ベッドが1億円前後。ヤス島から車で15分のリーム島なら、1ベッドが7,000万〜8,000万円台で手が届く。

ここで気になるのが、ドバイでよく聞く「1ベッド4,000万円台から」という価格帯の存在。アブダビにはないかと問うと、返ってきた答えがアブダビ市場の現在地を端的に示していた。「今のところはないです。アブダビが今開発しているのは主要部だけなんです。ドバイでいえば、ダウンタウンやパームジュメイラのようなメインどころ。そこと比べれば、アブダビはまだまだ安い」

つまり、ドバイの4,000万円台物件は値上がり期待は乏しく、完成時に価格が下がるケースすらゼロではない。一方、アブダビは、まだ「一等地しか売っていない」段階。いま市場に出ている物件は、すべてドバイの一等地に相当し、それでいて価格はドバイより低い。一等地を割安に仕込めるタイミング——これが現在の投資妙味の核心。主要部の開発が一巡すれば周縁部に安い価格帯が出てくるだろうが、それはまだ先の話になる。

利回りはドバイより2%高い——制度面のアドバンテージ

ルーヴル・アブダビ。ドームから差し込む光が、島全体の高級感を静かに支える

収益性の比較でも、上野氏の見立てはアブダビに分がある。前提にあるのは、ドバイの供給過多への懸念。ドバイでは、多くのデベロッパーが競って開発を進めており、人口流入が続いているとはいえ供給ペースには追いつかない。「本当にこの利回りで貸せるのか」と疑問のつく物件も散見される。政府が供給量を絞るアブダビとの需給環境の差は、そのまま利回りに表れる。「印象としては、アブダビのほうが2%ぐらい利回りが高いですね」

現在、アブダビの取引の約8割をオフプラン(建設前販売)が占める。一般に、オフプラン投資では、デベロッパーの破綻や引き渡し遅延が最大のリスクとされる。ところがアブダビ特有の注意点を尋ねると「ドバイに比べたら、ない、という回答になります」。開発の8〜9割を政府系が担う市場では、デベロッパー破綻という前提そのものが成立しにくい。

購入後の透明性を支えるインフラも整っている。ドバイではDLD(ドバイ土地局)のアプリで自己物件の工事進捗を確認できるが、アブダビでも規制当局が運営する「DARI(ダリ)」というアプリで同様の確認が可能。アルダーやモドンは独自アプリも提供しており、契約書の管理から支払い、工事進捗までを一元的に把握できる。

制度面では、むしろアブダビが優位に立つ項目が並ぶ。上野氏が挙げた違いを整理すると次のようになる。

  • 転売条件——ドバイでは物件価格の40%を支払わないと転売できないが、アブダビでは20%の支払いから転売が可能
  • 登記費用——ドバイの4%に対し、アブダビは2%
  • 支払いプラン——完成までの支払いが緩やかで、半年ごとに5%ずつというケースもある

転売のハードルは半分、取得コストも半分、ペイメントには余裕。流動性と参入しやすさの両面で、買い手に有利な設計といえる。

リスクをどう見るか——「現地の人が買う市場」の底堅さ

あえてリスクを挙げるとすれば何か? 2026年前半に中東情勢が緊迫し、UAE上空にドローンやミサイルが飛来した事態については、「まさかでした」と率直に振り返る。首都であるアブダビは、地政学リスクと無縁ではいられない。

それでも市場が崩れなかった事実は、データが示す通り。その底堅さの源泉を、上野氏は需要構造に見出す。ドバイの買い手がほぼ海外投資家で占められるのに対し、アブダビでは現地人のエミラティ自身が買い手として抽選会に列をなす。投機マネーだけでなく実需に支えられた市場は、外部ショックへの耐性がまるで違う。

5年後、10年後——「世界のアブダビ」へ

大統領宮殿「カスル・アル・ワタン」。政府が主導する首都の風格を象徴する空間

中長期の展望を聞くと、答えのスケールが一段大きくなった。「世界のアブダビ」になるのは間違いなく、ドバイは「あっという間に超えてしまう」だろう、と。

その根拠は資金力、そして何より金融。ADGMには世界の投資ファンドが集まり続けており、シンガポール・ロンドン・香港・ニューヨークに続く「第5の金融市場」としてアブダビを挙げる報道も出てきた。不動産市場の長期的な体力を決めるのは、結局のところ人と資本の集積。金融ハブ化はその両方を呼び込む。

中東でしばしば比較対象となるサウジアラビアに対しても、独自の見方を示す。サウジは石油収入も資金力もあるが、人口が多く、国を維持するコストが莫大にのぼる。対してアブダビは自国民が人口の1割程度と少なく、国家運営のコストが軽い。同じ産油国でも、投資に回せる余剰の大きさが桁違いだという構造的な差である。

開発の伸びしろも十分に残る。UAE国土の8割以上を占めるのがアブダビ首長国であり、現在開発されているのは沿岸の主要部のみ。空港南側での試験的な開発も始まっており、内陸部は「まだまだこれから」の状態にある。

どんな投資家に向いているか——「SNSでいいなと思う人はやめたほうがいい」

サディヤット島に立ち並ぶレジデンス。文化施設と住環境が同じ島に同居する

最後に、日本人投資家へのメッセージを聞いた。どんな人がアブダビ投資に向いていて、どんな人は手を出すべきでないのか。

上野氏の投資哲学は一貫している。不動産投資の本質は国が変わっても同じで、価格と利益を決めるのは相場のみ。したがって向いているのは、相場の見極めができ、周囲の熱気に惑わされない人。逆に向いていないのは——「SNSを見て『いいな』という感覚で動く人は、やめたほうがいいと思います。キラキラした広告の一方で、自分の足元を必ず調べる。その見極めは、どの市場でも一番大事です」

もっとも、アブダビには「じっくり検討する」という選択肢がそもそも存在しないという特殊な事情がある。人気物件は基本的に抽選販売で、当選後の意思決定に与えられる時間は極端に短い。「気に入ってから検討する時間が、ほぼゼロなんです。場合によっては15分以内に決めなければいけない」。即断がマストの市場。ゆっくり検討したい人にはドバイをすすめる、とまで言い切る。

裏を返せば、この市場では「情報と枠をどれだけ早く握れるか」がすべてであり、ブローカーの実力差が成果に直結する。バイテックスはアルダーをはじめ主要デベロッパーの代理店を務め、優先枠の割り当てを受けることで、既存顧客には検討時間を確保できる体制を築いてきた。昨年にはアルダーから「海外からの集客が最も多かったブローカー」として表彰も受けている。年4〜5回、デベロッパーの予算負担で日本国内でのセミナー・イベントを開催できるのも、この関係の深さゆえ——「おそらく、うちにしかできないこと」と上野氏は言う。

購入後のフォローにも踏み込む。同社は購入から管理・運用・売却までの一貫サポートを掲げてきた。その延長線上で現在開発中なのが、UAEに特化した日本語ベースの不動産管理アプリ「BITEX Property Cloud」。保有物件の登録、翻訳機能つきAIによる分析、同社の蓄積データを使ったアブダビ市場分析、さらにAirbnb運用の依頼までを一つに束ねる構想となっている。

「海外不動産では、言語の壁こそが一番のリスクだと思っていたので、それを解消するものです」

誰もアブダビを語らなかった時期に首都へ賭け、市場が本格的に動き出したいま、その果実を手にしつつある上野氏。「みんなが騒ぎ始めたら遅い」という言葉は、これからアブダビを検討する投資家にとって、最良の助言であると同時に、静かな問いかけでもある。

「BITEX Property Cloud」。AI査定から支払い管理まで日本語で完結する

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