「底値」を探すより取引量――イラン情勢後のドバイ・アブダビ不動産、ドリブン日本チームに聞く

イラン情勢がいったん落ち着いた2026年夏、ドバイとアブダビの不動産市場はどう動いているのか。パニックは去ったのか、価格は戻ったのか、次に狙うべき土地はどこか。ドリブン・プロパティーズ(Driven Properties)日本チームを率いるフセイン氏に、一問一答で聞いた。
※本記事は、Gates Dubai 8月号「UAE不動産の現在地」に掲載したインタビューのロングバージョンです。

ドリブン日本人チームを率いるフセイン氏。最近では、大物ユーチューバーとのコラボも行っている

「底値」を探すより取引の件数を見る

2026年上半期の主要指標。地政学リスク下でも、売買総額は史上2番目の水準を記録した

――アパートメントの価格が一時下がったと聞きます。底はいつごろだったのでしょうか。

「その問いの立て方が、そもそも実態に合っていないのだと思います。不動産は株や金と違って、毎日値がつく市場ではありません。売買が成立するまでに1〜2ヵ月かかりますから、統計に表れる価格は、実際の空気よりも遅れて動くんです。だから私たちがまず見るのは、価格ではなく取引の件数のほうです。3月は月1万3000件ほどあったものが、5月には9000〜1万件に落ち、6月にはまた1万4000件に戻っている。値段が動く前に、まず“人が動くかどうか”が数字に出ます」

――価格そのものは下がったのでしょうか。

「大手のデベロッパー、とりわけ政府系のEmaarやNakheelは、表示価格をほとんど動かしていません。彼らが動かしたのは価格ではなく、支払い条件のほうです。たとえば頭金と分割の比率を80対20から60対40、50対50へと緩める。表面の価格を据え置くのは、プロジェクト全体の資産価値を守るためでもあるんですね。値引きは一度出すと後から戻せませんが、支払い条件なら、局面が変われば静かに元へ戻せる」

――個人が持っている物件、リセールの価格はどうですか。

「そちらは下がっています。5%から1割ほど。4ミリオンAED(約1億6,000万円)だった物件が3.8、3.9といったところで、実感としては5〜6%の範囲です。というのも、リセールは市場の本音がいちばん早く出る場所なんですね。デベロッパーは価格を守れますが、個人の売り手は自分の事情で売り急ぐこともある。だから“いくらなら本当に買い手がつくのか”は、新築の表示価格より、この中古の成約価格を見たほうが正確です」

――EmaarNakheel以外のデベロッパーだと、下げ幅は変わりますか。

「一段大きくなります。15%、20%下がっている案件もあります。ブランドと流動性の差ですね。EmaarやNakheelの物件は、いざ売りたいときに買い手がつく。だから多少の逆風でも値を保てるので」

下げ幅がエリアとデベロッパーで割れる

シェイクザイード通りに面するダウンタウンの風景。立地に代えの利かない物件は、局面を問わず買い手がつく

――なぜエリアやデベロッパーによって下げ幅が違うのでしょう。

「結局は供給の量に行き着きます。ビーチフロントのように、海に面していて、そもそも土地のストックが限られている場所は、簡単には下がりません。作りたくても作る場所がないので、希少性が値を支えるんです。逆にクリークハーバーのようなエリアは、毎月のように新規のローンチが続く。供給の蛇口が開きっぱなしですから、需要が強くても価格は上がりにくく、風向きが変われば下がりやすい。“ドバイの相場”とひとくくりにせず、そのエリアの供給がこの先どれだけ出てくるかで見るべきなんです」

――イラン情勢が落ち着いてから、問い合わせや成約は戻りましたか。

「戻りました。ただし、物件を選びます。いま私たちが力を入れているアブダビは、問い合わせから成約までがとにかく速い。良い区画の供給が絞られているので、迷っている時間そのものがないんです。ドバイのほうは、プロジェクト次第ですね。全体が一様に動くというより、条件の整ったものだけが先に動く、という戻り方です」

――ドバイで動いているのは、どのような物件ですか。

「二つの軸で動いています。ひとつは希少性。メトロ直結のオフィスビルや、シェイクザイード通り沿いのプロジェクトのように、立地で代えの利かないもの。もうひとつは価格帯です。スタジオや1ベッドの3000万〜4000万円クラスは、買い手の層が厚いのですぐ売り切れます。逆に、特徴のない似たような物件は余る。2ベッド、3ベッドで1億〜2億円になると、買える人が限られるぶん、成約まで時間がかかります」

セカンダリーが「ローンで買える」市場に

ゴルフ場に隣接するドバイヒルズのヴィラ。土地の供給が限られる立地こそ、逆風下でも値を保ちやすい

――セカンダリー(中古・転売)市場が活発だとうかがいました。

「とてもアクティブです。デベロッパーから買った人が、それを次の買い手へ売る。この二次流通が回り始めていて、私が扱う物件も短期間で決まります。扱いの内訳は、これから完成するオフプランと、すでに動けるセカンダリーで、ちょうど半々くらい。新築の一次販売だけでなく、この中古の層に厚みが出てきたことが、いまの市場の底堅さにつながっていると思います」

――セカンダリーの決済も変わってきているとか。売り手はあくまで個人ですよね。

「そこは誤解されやすいのですが、売り手はあくまで物件を保有する個人です。変わったのは、その買い手に融資がつくようになったこと。頭金3割、7割をローンで、なかには8割借りる人もいます。EmaarとEmirates NBD、NakheelとNBDというように、デベロッパーと銀行が同じグループで組んでいる。だから、まだ完成していないオフプランでも、個人が持つ中古でも、ローンが使える。かつては現金が基本だったセカンダリーにレバレッジが効くようになったわけで、これは買える人の裾野を一気に広げます」

危機のさなかでも取引は止まらなかった

パームジュメイラ。海に面した土地のストックは限られ、希少性がそのまま価格を支えている

――イラン情勢の渦中でも、実際に買った人はいたのですか。

「多くいらっしゃいました。日本人のお客様でも、5月に決めた方、6月に決めた方がいます。取引はまったく止まっていません。むしろ、皆が様子見に回る局面でこそ、腹の据わった買い手が動いていた、という印象です」

――売りたいというオーナーも動いていますか。

「動いています。先週決まった案件では、2023年に購入された日本人オーナーが、投資額プラス50%で売却されました。5ミリオンAED(約2億円)で買って、7.5ミリオンAED(約3億円)で手放した計算です。こうした方は珍しくなく、今週も3件ほど成約しました。いずれも日本の方で、共通しているのは、イラン情勢とは無関係にもともと出口を考えていたということ。有事だから投げ売った、という話ではないんです。むしろ、利益を確定できる水準まで戻ったから動いた、というのが実態に近い」

価格の「戻り」はエリアと価格帯で分かれる

――3月にパニックで値を下げた売り手は、今どうしていますか。

「あのとき怖くなって早々に下げた方は、もう値を戻しています。15%下げて、いまは10%戻した、というような動きですね。有事の前と比べれば、まだ5%ほど低い水準ですが、この差は情勢というより季節の要因が大きい。夏場は取引が細りますから」

――超高級物件はどうですか。

「アトランティス・ザ・ロイヤルなどは、そもそも上がりすぎていました。当初7億円ほどだったものが3倍近い21〜22億円まで行った。さすがに一度は反落して、まだ高値には戻っていませんが、また少しずつ切り上げています。行き過ぎた価格が一度平常に引き戻される――超高級帯では、こうした調整はむしろ健全な動きなんです」

――また情勢が緊迫したら、市場は動揺しますか。

「正直、皆が慣れてしまいました。ウクライナ紛争のときと同じで、少々のことでは驚かなくなっている。有事に対する市場の耐性が上がった、と言ってもいい。いま完全には戻り切っていないのも、地政学が理由ではなく、単純に夏休みです。多くの方が家族を連れて出かける時期ですから、秋にかけて人が戻れば、取引もまた動き出すと見ています」

人口は1年で50万人増、支える賃貸需要

ダウンタウンに立つエマールの物件群。大手は表示価格を据え置き、支払い条件のほうで調整する

――市場を支える人口はどうなっていますか。

「ドバイの人口が450万人に達したそうです。少し前まで400万人、その前は360万〜370万でしたから、1年で50万人増えた計算になる。同時に、今年は賃貸契約を結ぶ方が去年より多い。更新も新規も増えています。売買の話題が先行しがちですが、この賃貸需要の厚みこそが、投資物件の利回りを下から支えている土台なんです」

――その50万人は、どこから来ているのでしょうか。

「もちろん海外からの流入もありますが、私が注目しているのは首長国をまたいだ“域内の移動”です。シャルジャやアジュマンから移ってきた人が相当いるはずなんですね。有事で家賃がいったん下がったので、同じ予算で、これまでより中心に近い場所に住めるようになった。私自身、10年前はドバイの家賃が給料に見合わず、シャルジャに住んでいました。相場が下がった局面で、同じ家賃のままドバイ側へ移ったんです。今まさに、それと同じ玉突き現象が起きているのだと思います」

――「もっと下がったら買う」と待つ人もいるのでは。

「『20%下がったら買う』と構えている方はいます。ただ、その水準まで下がりきる前に市場が落ち着いて、結局は戻ってしまう。待っているうちに機会が閉じる、というのがこの市場のパターンなんです。実際、すでに物件を持つオーナーからは『2つ目、3つ目が欲しい』という問い合わせが以前と変わらず届いていますし、1ベッドを売って2ベッドへ住み替えたい、という相談もある。現に保有している人ほど、下がるのを待つより次に動いている。そこに、この市場の本音が出ていると思います」

次の一等地は新空港・鉄道・ドバイヒルズ2

ジュメイラ・ゴルフ・エステート周辺。ゴルフ場に面したコミュニティは値上がりが実証済み

――ドバイの一等地は、もう出尽くしたのでしょうか。

「いいえ、むしろこれから生まれます。パームジェベルアリもいいですし、注目はアル・マクトゥーム新空港の周辺です。あのあたりは、この10年で街の姿がまるごと変わるはずです。Emaarが手がけるジ・オアシスも建設が進んでいて、ヴィラは安くても4億円から。簡単に手の出る価格ではありませんが、すでに相当売れている。中心に人工の水路を通し、緑を敷き詰めて、ドバイヒルズと同じ広さにわずか6000戸しか置かない設計です。あえて密度を抑えることで希少性を作る――まさに砂漠の中のオアシスですね。一等地は“残っている場所を探す”のではなく、マスタープランで“作られる”ものなんです」

――交通インフラの進化も影響しますか。

「大きいと思います。エティハードレールという旅客鉄道が始まります。いまはシャルジャ〜アブダビ間が中心ですが、9月にはドバイ発の運行が始まる見込みです。ドバイからアブダビまで1時間ほど。移動時間が読めるようになると、これまで“遠い”とされていたエリアの評価が変わります。鉄道が通れば、その沿線に新しい生活圏と資産価値が生まれる。インフラは、あとから効いてくる投資材料なんです」

――すでに値上がりが実証されたエリアは。

「ゴルフ場に隣接するエミレーツ・ヒルズは、10〜15年前は安かったのに、いまは安くても15億円ほど。ジュメイラ・ゴルフ・エステートの周辺も高い。ドバイヒルズも、当初は郊外扱いでしたが、いまや大成功のコミュニティです。先日Emaarが2000億ディルハム規模の大型開発を発表しましたが、これがドバイヒルズの南側、ゴルフ場に近い一帯で、私は勝手に“ドバイヒルズ2”と呼んでいます。マリーナまで車で15分ほど、戸建ては20ミリオン、約20億円から。実績のあるデベロッパーが、成功したモデルをすぐ隣で再現する。この“二匹目”は、経験上かなり堅いと見ています」

次に価格が下がるとすれば、そして下支え

注目されているアブダビ。良質な区画の供給が絞られ、問い合わせから成約までのスピードが際立つ

――今後、価格が下がる場面は想定できますか。

「逆説的ですが、もし下がるとすれば、それを買える“今”がいちばんの好機だと思います。先月、取引が1万3000件から9000件に減ったとき、多くの人は不安で手を止めました。ところが1ヵ月後には、件数はむしろ前を上回った。つまり、下げは長続きせず、動けた人だけが果実を取る。値動きそのものより、下がった局面で腹をくくれるかどうか。そこで差がつく市場なんです」

――政府の下支えについては、どう見ていますか。

「制度面の追い風は着実に増えています。ビザの条件は緩和が進み、2年ビザも以前より低い投資額で取れるようになりました。ローンも、先ほどのデベロッパーと銀行の連携で、大手を中心に借りやすくなっている。ほかにも、法人更新のペナルティ免除といった細かな施策も出ています。個々の施策は小さくても、方向は一貫していて、要は“住みやすく、買いやすく、留まりやすく”する設計なんですね。この政策の一貫性こそ、外から資金を呼び込み続けている最大の理由だと、私は思っています」

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